木材加工機 技術情報
木材や木質材料の製造や加工工程において加熱処理は欠くことのできない重要な工程です。熱源としては、蒸気・熱盤・熱風など様々な種類が利用されています。単板などの薄い木質材は、従来加熱でも容易に加熱することができますが、厚み、容量の大きな木質材料の場合、熱伝導率がきわめて低いために従来加熱では時間がかかり効率が悪い。このため古くより短時間で急速加熱が可能な誘電加熱が利用されてきました。誘電加熱を利用した木材や木質材の接着装置は、1950年代頃より実用化され、日本でも数多くの装置が家具、建材(集成材、LVL、CLTなど)、扉、壁板、床材、木箱などに幅広く利用されています。2450MHz或いは915MHzのマイクロ波が利用されるケースもありますが、ほとんどは3~30MHzの高周波が使われています。
木材の誘電加熱
蒸気・熱盤・熱風は、外部からの熱伝導加熱であり、加熱速度は主に熱伝導率によって支配されるため徐々に外部から内部へ加熱されていきます。これに対して高周波やマイクロ波の誘電加熱は、1秒、2秒という単位で内部と外部がほぼ均一に急速加熱されていきます。木材は、プラスチック、セラミック、ゴムなどの他の材料に比べて誘電損失が大きく発熱し易いです。また、次表に示すように木材接着に使われる接着剤樹脂は、乾燥木材より損失係数が大きいため、誘電加熱により効率的に木材接着ができるのです。
物質 | 損失係数 |
---|---|
木材(含水率15%) | 0.02~0.2 |
木材(含水率60%) | 0.3~3 |
フェノール樹脂 | 0.068~0.15 |
ユリア樹脂 | 0.18~0.22 |
メラミン樹脂 | 0.15~0.42 |
各種物質の損失係数(周波数 1MHz)
加熱方式
高周波誘電加熱において、木材や木質材どうしを接着する代表的な加熱方式を次に示します。
1. 全体加熱方式
図1 全体加熱方式
2枚の対向する平行平板電極に対して、木材(単板や挽板)と接着層が水平になります。電極に挟まれた被加熱物全体が均一に加熱されます。接着剤は、損失係数が高いため、木材より早く効率的に発熱します。合板、湾曲積層材、LVLなどに利用されています(図1)。
2. 選択加熱方式
図2 選択加熱方式
2枚の対向する平行平板電極に対して、木材(単板や挽板)と接着層とが垂直になります。全体加熱方式に比べて、接着層に高周波電界が集中するため木材自体をあまり加熱することなく、接着層のみを効率的に加熱できます。接着層加熱(Glue line heating)とも呼ばれる代表的な接着方式で、集成材、家具部材の幅剥ぎ接着などに幅広く利用されています(図2)。
3. 部分加熱方式
図3 部分加熱方式
電極の形状やサイズを変え、組み合わせることで、加熱したい部分に高周波電界を集中させて部分加熱する方式です。箱組、枠組み、単板スポット仮留などに利用されています(図3)。
4. 表面加熱方式
図4 表面加熱方式
グリッド電極とよばれる導体棒状の電極を被加熱物の表面に沿って格子状に配置し、グリッド電極間に強い電界を生じさせることで、被加熱物の表面や表層部を効率よく加熱させることができます。扉など枠組み材への表面材接着に利用されています(図4)。
木材や木質材料の製造や加工において、加熱のための熱源は、従来より蒸気、熱盤、熱風など様々な手段が用いられていますが、熱伝導率が悪く、厚みや容量の大きい木材や木質材料を急速に均一に加熱できる熱源としては、高周波やマイクロ波による誘電加熱に勝る熱源はないと言えます。木材加工分野は、古くより高周波誘電加熱装置の市場としては、PVCなどのプラスチック加工、食品加工に次ぐ大きな市場として普及しており、今後もその位置づけは変わらないでしょう。