安全基準など法的規制
人体の安全面から見たわが国の高周波誘電加熱装置などからの高周波エネルギー漏洩量の規制は、現在のところ電波法には特に規定されていません。しかし、もちろん、安全性を無視してもよいということではありません。一般に利用されている人体への安全性のガイドラインとしては「電波防護指針"諮問38号 電波利用における人体の防護"電気通信技術審議会 1990(H2)-6答申」に指針が示されており、この指針を用いて自主規制をおこなっているのが現状です。
電波防護指針には「電波利用において人体が電磁界にさらされるとき、その電磁界が人体に不要な生体作用を及ぼさない安全な状況であるために推奨される指針である」と記載されており、人体の深部体温上昇、電流刺激、高周波熱傷などの異常発生がない指針値が示されています。
「電波防護指針;諮問38号」が答申された後は、携帯電話端末などの身体に極めて近接して使用される機器を対象に、局所吸収指針値を追加した「電波防護指針"諮問第89号 電波利用における人体防護のあり方"電気通信技術審議会 1997(H9)-04答申」もあり、現在に至っています。
電波防護指針に示されている電磁界強度の指針値
(表2-1)は「電波防護指針;諮問38号」で示されている電磁界強度の指針値です。この指針値は世界各国で採用されています。「管理環境(条件P)」とは電波利用の実情が認識されていると共に、防護対象を特定することができる状況下にあり、注意喚起などに基づいた電波利用をおこなえることが可能な場合をいいます。「一般環境(条件G)」とは(条件P)を満たさない場合をいい、次にあげるような状況を考慮して十分な安全率を適用しています。
・さまざまな年齢、身体の大きさ、健康状態などの人々が含まれる。
・電波の利用を必ずしも認識していない。
・電撃、高周波熱傷に対する予防措置を期待できない。
つまり、「一般環境(条件G)」とは民生用の電子レンジを使用する場合をいい、「管理環境(条件P)」の「5倍の安全率(規制値では1/5)となる」を考慮して設定しています。
なお、「ペースメーカー使用者などの特殊な状況に置かれている人」は本指針適用から除外されています。
局所的にさらされた場合の電磁界強度の指針値
なお、「電波防護指針;諮問89号」では、局所的にさらされた場合の指針値が(表8-2-2)の内容で示されています。
表にある「SAR」とは「Specific Absorption Rate」の略で「比吸収率」といい、生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量を表します。単位は「W/kg」です。SAR を全身にわたり平均したものを「全身平均SAR」、人体局所の任意の組織1g または10g において平均したものを「局所SAR」といいます。
また、SARは体内での熱発生の尺度としても用いられ、全身平均SARは人体に吸収されるエネルギーの総和の指標となります。一般的に、安静時の代謝量は1 W/kg程度、軽い運動で2.5 W/kg、激しい運動で10 W/kgです。全身平均SARが4 W/kg程度になると深部体温が約1℃上昇すると見積もられ、健康への負担になると言われています。
ちなみに、携帯電話の場合は以下のとおりです。
携帯電話(800MHz帯)・・・・・・ 平均値0.565W/kg(σ=0.217)
携帯電話(1500MHz帯)・・・・・・ 平均値1.04 W/kg(σ=0.261)
表8-2-1/電波防護指針に示されている電磁界強度指針値(6分間平均値)
環境条件 | 周波数[f] | 電界強度の実効値[E(V/m)] | 磁界強度の実効値[H(A/m)] | 電力密度[S(mW/cm2)] |
---|---|---|---|---|
管理環境 (条件P) |
10kHz~30kHz | 614 | 163 | |
30kHz~3MHz | 614 | 4.9f(MHz)-1 (163-1.63) |
||
3MHz~30MHz | 1,842f(MHz)-1 (614-61.4) |
4.9f(MHz)-1 (1.63-0.163) |
||
30MHz~300MHz | 61.4 | 0.163 | 1 | |
300MHz~1.5GHz | 3.54f(MHz)1/2 (61.4-137) |
f(MHz)1/2/106 (0.163-0.365) |
f(MHz)/300 (1-5) |
|
1.5GHz~300GHz | 137 | 0.365 | 5 | |
一般環境 (条件G) |
10kHz~30kHz | 275 | 72.8 | |
30kHz~3MHz | 275 | 2.18f(MHz)-1 (72.8-0.728) |
||
3MHz~30MHz | 824f(MHz)-1 (275-27.5) |
2.18f(MHz)-1 (0.728-0.0728) |
||
30MHz~300MHz | 27.5 | 0.0728 | 0.2 | |
300MHz~1.5GHz | 1.585f(MHz)1/2 (27.5-61.4) |
f(MHz)1/2/106 (0.0728-0.163) |
f(MHz)/300 (0.2-1) |
|
1.5GHz~300GHz | 61.4 | 0.163 | 1 |
表8-2-2/電波防護指針に示されている局所吸収指針値(任意の6分間)
環境条件 | 全身平均SAR | 局所SAR |
---|---|---|
管理環境 (条件P) |
0.4 W/kg | 任意の組織10g当り 10 W/kg 20 W/kg(四肢) |
一般環境 (条件G) |
0.08 W/kg | 任意の組織10g当り 2 W/kg 4 W/kg(四肢) |
※周波数適用範囲:100kHz~3GHz
※対象:身体に近接して使用する小形無線機など。0.3~3GHzで10cm以内。
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