高周波誘電加熱の応用例
がん治療は近年、外科療法、放射線療法、化学療法を中心として大きく進歩してきましたが、最近、がん細胞を温めて死滅させるハイパーサーミア(がん温熱療法)という治療法も普及しつつあります。そして、がん細胞を加温する方法として、高周波誘電加温装置が実用化されています。
ハイパーサーミアの加温に最適な高周波誘電加温
ハイパーサーミアに求められる加温の特性は以下の7点にまとめられます。
① 人体に大きな負担をかけずに加温できること
② 安全に加温できること
③ 局所的な加温ができること
④ 生体深部の加温ができること
⑤ 加温領域を変えることができること
⑥ 全身的な影響が少ないこと
⑦ 温度コントロールが正確にできること
このすべてを満たすには、一般的な加温方法である熱風、温水、赤外線などの熱伝導による外部加温では困難で、電磁波や超音波を用いる内部加温が適しています。
このうち、超音波は集束しやすい利点はありますが、生体内では減衰が大きく深部加温は困難です。また、骨や空気との境界で大きな反射があるなど適応範囲が狭く、そのようなデメリットのない電磁波がハイパーサーミアにより適しています。さらに、電磁波の中でも、波長の短いマイクロ波帯よりも波長の長い高周波帯のほうが深部加温ができるので、高周波誘電加温がハイパーサーミアにもっとも適した加温方法だと言えます。日本では8MHzや13.56MHzのHF帯の高周波を使う装置が普及しています。
ハイパーサーミアにおける高周波誘電加温の原理と留意点
HF帯の高周波を用いたハイパーサーミア装置では、対向する2枚の電極に生体患部を挟んで誘電加温します。つまり、誘電体を構成する分子の配向分極の遅れで生じる誘電損失により加温されるという原理です。しかし、生体は必ずしも誘電体とはいえず、導電体の性質も備えています。そこで、装置の電極にボーラスと呼ばれる絶縁体層を取り付けて、誘電加温が生じるような仕組みになっています。(図7-12-1)
それでも、10MHzの高周波の生体内の波長は約2.4mあり、身体よりもかなり大きいので、高周波は電流のように生体内を流れ、生体組織の抵抗によりジュール熱を発熱します。そのため、ハイパーサーミア装置による加温は、誘電加温とジュール熱による加温の2種類が組み合わされていると考えられます。
図7-12-1/ハイパーサーミア装置の原理
ハイパーサーミアの誘電加温の特長と留意点は以下のとおりです。
① 身体の厚み(電極間隔)より電極サイズ(電極直径)が大きい場合、高周波電流は生体内をほぼ均等に流れるので、その結果、深部加温が可能になります。通常、電極サイズは20cmφ~30cmφと身体の厚みより十分に大きなものが用いられます。
② 高周波電流は皮下脂肪や筋肉を突き抜けるように流れるため、抵抗の大きな脂肪層の発熱が大きくなります。しかし、皮下脂肪は体表に近いので、ボーラス内を還流する冷却水によって冷却できます。
③ エッジ効果により電極の周辺部の電界が強くなり、そこに高周波電流が集中して発熱が大きくなりますが、電極と身体の間に電極サイズより大きく厚みのあるボーラスを挿入することで、エッジ効果の発熱を身体から遠ざけています。
④ 電極サイズが小さいと、そこに高周波電流が集中します。その特性を利用して、小さな電極と大きな電極を組み合わせることで、小さな電極側をより強く加温できます。(図7-12-2)
⑤ 空気層や骨があると、高周波電流はそこを避けるように流れるため、電流が集中して発熱量が大きくなる部分が発生します。それをできるだけ避けるために、電極やボーラスの配置に工夫が必要です。(図7-12-3)
図7-12-2/電極サイズの組み合わせ
図7-12-3/空気や骨の影響
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