高周波誘電加熱の応用例
7-14. 低温プラズマにおけるスパッタ

スパッタ装置の概略を、(図7-10-1)に示します。通常、平行平板電極が使用されます。
ターゲットにマイナス電圧を印加することによりプラスイオンが加速されて、ターゲットにかなりのエネルギーをもって衝突します。その結果、ターゲットの分子がはじき出され、対向するプレートに付着します。これがスパッタの原理です。

図7-10-1/スパッタ装置

入射粒子1個当たり放出されるターゲット原子、分子の数をスパッタリング率といいます。これは、入射粒子の種類、エネルギー、ターゲットの種類等によって決まる量です。

金属の場合は、このようにしてスパッタができます。しかし、絶縁体のターゲットの場合には、表面がすぐにイオンの電荷でチャージアップして、マイナス電位を打ち消してしまいます。高周波を使用すれば、自己バイアスを利用して、いつもターゲット表面にはマイナス電位を与えることができます。
真空蒸着と比較すると、蒸着レートは遅いですが、密着度の良い膜ができるという特長があります。半導体のパッシペーション膜(表面保護膜)作成等に多く使われています。ほかに、磁気テープ、磁気ディスク、磁気ヘッド等の製膜にも広く使われています。

スパッタは、ターゲットに高電圧のDCや高周波を印加することが基本ですが、製膜の品質を向上するためにサブプレートにもDC、または高周波を加えて、製膜する方法もあります。サブスレートへの印加は、スパッタの前にサブストレートのみの印加でおこなうクリーニングを主目的とした場合と、スパッタ中に同時におこなう場合とがあります。スパッタ中同時におこなうものをバイアススパッタといいます。ターゲットとサブストレートの両方に高周波を印加する場合には、干渉の問題があるので注意が必要です。普通は、1台の基準発振器からの信号で2台の高周波電源を動かし、周波数をまったく同じものとし、なおかつ、位相もコントロールすることにより安定した放電が可能となるように配慮しています。その構成を(図7-10-2)に示します。

図7-10-2/バイアススパッタ

図7-10-3/電子のサイクロイド運動

スパッタでは、マグネトロンスパッタを忘れてはなりません。電界と直交する磁界を用いたスパッタです。この磁界のために電子の寿命を長くできます。そのために、低い圧力でも放電を維持でき、高密度プラズマができます。高速、低温化が可能となっています。
(図7-10-3)に示すように、直交する電磁界中での電子の運動は、次式で表せるサイクロイドとなります。


ここに、

ωcはサイクロトン振動数、R はラーモア半径と呼ばれます。B =0.1〔T〕(1000ガウス)とした場合のωcとR は、

となります。ここで、室温でのV=6.7×104〔m/s〕としました。
このように、ターゲットとサブストレートの間で電子は円運動しながら衝突を繰り返し、アノードへと到達します。そのために放電が容易となり、またイオン電流が増加し、スパッタレートが著しく大きくなります。
1μm/h程度だった製膜速度が、条件によっては1μm/minと大幅に上昇したものもあります。
スパッタ中に活性化ガスを導入して、ターゲット材料と化学反応させて化合物を形成する反応性スパッタもあります。酸化膜、窒化膜、硫化膜等の製膜に使われています。圧力、導入ガスの割合、スパッタ速度などにより膜の成分が制御できますが、逆にこれらの量を管理する必要があります。(高橋勘次郎氏監修「高周波の基礎と応用」より抜粋)