高周波誘電加熱の原理
6.比誘電率から見た誘電体損失の発生の原理

前の単元で誘電体損失の発生するプロセスを数式で説明したとおり、誘電体損失の大きさは比誘電率に比例します。そこで、比誘電率の視点から見た誘電体損失の発生の原理を追ってみましょう。これは、本来90°位相が進むはずの変位電流がδだけ遅れ、それが誘電体損失を生じさせているとの前述の図解を、比誘電率という側面から説明するものです。
被加熱物である誘電体に交流電圧をかけると、分極の向きが交互に反転し、変位電流が流れることはすでに説明しました。このとき、厳密には電流の向きの変化に対して、生じる分極の反転に遅れが生じます。これを誘電緩和といいます。高周波電圧をかけた場合、誘電緩和の影響が大きくあらわれ、これが誘電体損失を生みます。
(図3-6-1)をご覧ください。誘電体が持つ比誘電率εが誘電緩和によりδだけ位相に遅れが生じたとします。これがε(○)です。ε(○)はεと同じ位相のベクトルε′と、εよりも位相が90°遅れたε″の合成ベクトルと考えることができます。このとき、ε′は高周波電流による実効的な比誘電率を表し、誘電体が持つ本来の比誘電率εよりも低下しています。そして、ε″は誘電緩和によって生じた誘電体損失を表す比誘電率です。

図3-6-1/複素比誘電率のベクトル表示