高周波誘電加熱の原理
さて、ここまでコンデンサに交流電圧がかかると、90°位相の進んだ変位電流が発生することを説明しました。理論上のコンデンサは交流電圧がかかると分極が発生・反転し、それによって変位電流は流れますが、電子の流れを伴う導電電流は流れません。したがって、抵抗は発生しません。しかし、実際のコンデンサは必ずわずかながらの導電電流が流れます。それが以下の原理によって「一種の抵抗(直流における抵抗ではなく、位相を遅らせるという意味での抵抗)」を生じさせ、高周波誘電加熱の熱源となります。
(図3-4-1)の(a)のように誘電体に交流電流(I )を流す回路は、わずかながらの導電電流も流れるため、変位電流の要素と導電電流の要素に分解した等価回路=(図3-4-1)の(b)に置き換えることができます。つまり、交流電流(I )は、コンデンサを流れる変位電流(I 2)と抵抗の生じる導電電流(I 1)との合成電流(I )としてとらえられます。このとき導電電流(I 1)は電圧Vと同位相であるのに対して、変位電流(I 2)は電圧V より位相が90°進むので、(図3-4-1)の(c)のベクトル図上では合成電流は(I 1)と(I 2)との合成ベクトルとなります。これは本来、電圧V より位相が90°進むべき変位電流が、導電電流の影響を受けてδ遅れていることとなり、「一種の抵抗」が生じていることを意味します。この抵抗によるエネルギー損を誘電体損失といいます。誘電体損失は高周波電流を流したときに顕著にあらわれて、誘電加熱のエネルギー源となります。
図3-4-1/誘電体に流れる変位電流と導電電流
なお、先に理論と違って実際のコンデンサは必ずわずかながらの導電電流が流れると述べましたが、導電電流の流れるところには抵抗が発生し発熱します。この発熱をジュール熱といいます。点灯している電球が熱くなったり、電気ストーブが発熱するのはジュール熱によるものです。つまり、実際にはどんな誘電体でも変位電流と同時に導電電流も流れているので、誘電体が発熱するときには誘電加熱だけでなく、多かれ少なかれ、ジュール熱による発熱も混じっています。
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