誘電加熱を起こす電磁波の種類
5.電波の帯域で激しくなる配向分極の反転

3つの誘電分極のタイプのうち、電子分極は原子内の電子の分布に偏りを生じさせます。イオン分極はイオンの分布に偏りを生じさせます。それに対して、配向分極は電界の向きに沿って分子を整列させます。物質に与えるこの影響の違いで、それぞれの誘電分極によって生じる現象が異なります。

■配向分極の反転によって起こる分子の振動

交流回路上の電界で起こる配向分極は、交流電流の周波数に合わせて反転を繰り返します。つまり、分子の向きを反転させます。周波数が低いときには、分子の向きの反転は電界の反転にスムーズに追従します。しかし、高周波になるにつれてスムーズに追従できなくなり、分子は激しく振動して発熱します。これが誘電加熱です。したがって、誘電加熱は配向分極でしか起こりません。
配向電極が電界の反転にスムーズに追従できなくなり、もっとも激しく振動して誘電加熱が起こる周波数は短波からセンチ波(3MHz~30GHz)の電波の帯域です。それより低い周波数のときには発熱するほどの振動は起こらず、逆にそれ以上の周波数になると、配向分極の反転は完全に追従できなくなり配向分極は見られなくなります。

■イオン分極と電子分極の反転によって起こる共振

配向分極による分子の向きが電界に沿って整列した瞬間は、分子はその状態で安定します。しかし、イオン分極によるイオン分布の偏りは、常に自ら元へ戻ろうとする力が働いています。そのため高周波電界によってイオン分極が生じると、電界による反転の力に元へ戻ろうとする力が加わります。そして、この2つの力はある固有の周波数の帯域で共振を起こして、イオンの振動が非常に大きくなります。この固有の帯域は、イオン分極の場合は3THz~30THz(テラヘルツ)の赤外線の帯域です。このとき、イオンの振動が非常に激しくなり発熱します。これは誘電加熱とは異なりますが、赤外線に大きな加熱作用があるのはこのためです。
電子分極における電子の振動にも同じ共振現象がみられます。電子分極の場合の共振を起こる固有の帯域は3PHz~30PHz(ペタヘルツ)の紫外線の帯域です。紫外線は電子を激しく振動させ、加熱作用ではなく物質に強い化学変化を起こします。そのため、紫外線は化学線ともいわれ、滅菌・殺菌などに利用される一方で、人間の皮膚を日焼けさせます。

※T(テラ)、P(ペタ)とは?

M(メガ) 10の6乗
G(ギガ) 10の9乗
T(テラ) 10の12乗
P(ペタ) 10の15乗