マイクロ波加熱の応用例
具体的応用例と装置例 食品業界 食品の殺菌・防黴・殺虫(食品害虫、マダラメイガ類)

食品業界

(1) 食品の殺菌・防黴・殺虫(前ページより続く)

⑤ 食品害虫の殺虫

図19.3.6 コンベヤベルト上の被処理物

最近食品販売の分野では食の安全、衛生の中で食品害虫の食品への混入が大きく問題になっている。食品害虫の駆除方法としては、燻蒸法が一般的に使用されているが、この方法の欠点の一つとして食品に燻蒸剤が残留する可能性があることである。近年、より安全で効果的な防虫対策として工場全体(設備機械を含む)を外部と仕切り、熱風により室内温度を上昇させ、長時間保つことにより殺虫する試みもなされている。

食品の原料となる農作物には、各種の成虫・幼虫・卵などがしばしば混入している。最終製品の中で繁殖し、消費者からのクレームになることが数多くある。代表的な食品害虫には、小麦粉やピーナッツ、クルミ、アーモンド、シイタケ、ゴマなどを食害するマダラメイガ、乾燥野菜やナッツ類に発生するコクヌスト、ヒメマルカツオブシムシ米によく発生するコクゾウムシ、その他にダニ類などが挙げられる。

これらの食品害虫に対しマイクロ波殺虫は、安全性が高く、短時間にしかも確実に殺虫処理できる特徴を有する。例えば、乾燥野菜では分単位の殺虫時間で層圧60mm程度で図19.3.6 のようにベルトコンベアにて連続供給・搬送常態で殺虫することが可能である。

殺虫工程に利用されている出力数kW~数十kWのマイクロ波加熱装置での殺虫処理は、穀類を始め、各種乾燥野菜、各種粉末製品、菓子類、乾燥麺類など広範囲に渡って行なわれており、食品に混入する害虫に対し充分な殺虫効果を現わしている。

出典 鈴木実・村中恒男・山口聡:
マイクロ波による食品の加熱とその利用分野,ジャパンフードサイエンス,44(2),18-26 (2005)



⑥ マダラメイガ類の殺虫効果

図19.3.7 ゴマ粒中のマダラメイガの幼虫

マダラメイガは体長10mm前後で、雌は雄よりも大型である。乾燥野菜類、ピーナッツなどの豆類、菓子類、ゴマ、七味唐辛子、各種香辛料などに混入し、目につきやすい食品害虫である。生育条件に恵まれた場合は、卵から成虫まで25~30日間という短時間で終了する。幼虫は穿孔能力が強く、又、運動能力も高いため、プラスチックフィルムなどの食品包装を食い破り包装内に浸入することもあり、害虫が包装外から浸入したのか…?包装内からの発生したのか…?で色々問題になる害虫でもある。この場合もマイクロ波加熱は有効な殺虫手段として利用されている。

尚、図19.3.7にゴマ粒中のマダラメイガの幼虫を示す。





出典 鈴木実・村中恒男・山口聡:
マイクロ波による食品の加熱とその利用分野,ジャパンフードサイエンス,44(2),18-26 (2005)



⑦ ノコギリヒラタムシの殺虫効果

図19.3.8 ノコギリヒラタムシ

図19.3.8に示すノコギリヒラタムシは幼虫の方が成虫より大形であり、製粉、菓子、乾燥果実、乾燥野菜に多く見出されるが、既に他の害虫によって食害された砕粉や屑のできた状態の所に発生する。ノシメマダラメイガと同様に、マイクロ波加熱に弱く、加熱による殺虫効果は充分に現われる。一般にマイクロ波加熱による食品害虫の殺虫処理は、卵 > 幼虫 > さなぎ > 成虫 の順位で耐性があるので、この点を考慮してマイクロ波加熱温度を設定する必要がある。マイクロ波加熱処理による殺虫は、一般微生物の殺菌に比べて被処理物の処理温度が比較的低いため(通常 55~65℃)、加熱による品質変化が少なく、工程管理も容易である。

なお、被処理物の含水率が低い場合、マイクロ波の選択加熱性が出やすいため、被処理物の温度が低く処理される場合でも虫の温度は上昇して、殺虫効果が上がる場合がある。

なお、マイクロ波加熱単独で殺虫処理するのではなく、熱風や遠赤外線ヒータを併用し処理することにより、より大きな殺虫効果を得ることも可能である。これはマイクロ波加熱時に、放熱により温度の低い被処理物の表面に移動してきた(逃げてくる)虫にダメージを与えるものである。

出典 鈴木実・村中恒男・山口聡:
マイクロ波による食品の加熱とその利用分野,ジャパンフードサイエンス,44(2),18-26 (2005)