高周波誘電加熱の応用例
周波数が低いほうが物質の奥まで浸透する
高周波やマイクロ波は、(図7-4-2)のように物質の表面から入り、徐々に熱エネルギーに変換されます。そのため、内部に浸透すればするほど、電力密度は減衰されていきます。電力密度が物質表面の2分の1にまで減衰する深さを電力半減深度といい、周波数と損失係数に反比例します。つまり、周波数が高いほど、あるいは、損失係数が大きいほど、エネルギーは深く浸透せずに表層部で熱エネルギーに変換されてしまいます。
(表7-4-3)の事例でみると、高周波はマイクロ波に比べて、約5倍、あるいは、約8.6倍、電力半減深度が大きいことがわかります。厚みのある大きな食品を解凍する場合、電力半減深度の小さいマイクロ波では内部まで加熱しにくい傾向にあります。解凍が進んで損失係数が大きくなると、さらにマイクロ波の電力半減深度は小さくなり表層部しか加熱しません。これが、マイクロ波よりも高周波のほうが食品解凍に適している、2つめの理由です。
表7-4-3/牛肉の電力半減深度
高周波(13.56MHz) | マイクロ波(915MHz) | 電力半減深度の差 | |
---|---|---|---|
冷凍牛肉(-15℃) | 61cm | 12cm | 約5 倍 |
生牛肉(15℃) | 26cm | 3cm | 約8.6 倍 |
図7-4-2/誘電体に投射された電磁波
半解凍状態(テンパリング)にするのにも適した高周波
(図7-4-4)は高周波で冷凍食品を解凍したときの温度上昇を示したものです。見てのとおり、温度は0℃に近づくにつれて上昇がにぶり、そのまま0℃の一歩手前で(完全に解凍した状態にならないまま)推移しています。
この現象は2つの原因が重なって起こっています。
1つは、解凍が進むと食品内部の自由水が溶け始め、融解潜熱にエネルギーが奪われて温度上昇がにぶるというもの。これは高周波にもマイクロ波にも当てはまる原因です。
もう1つは、高周波特有の原因です。
高周波で誘電加熱する場合、被加熱物である冷凍食品と電極の間に空気の隙間があります。水は空気と誘電率の差が大きすぎるため、解凍が進み表面の氷が水になるにつれて、高周波電圧が加わらなくなり、加熱されなくなります。そのため、0℃近くにつれて温度上昇がにぶります。このことは、熱暴走を防ぐのに有効です。
しかも、冷凍食品は通常、完全に解凍した状態よりも、-5℃~-1℃の半解凍状態のほうが加工しやすく、品質の劣化を防止することができます。半解凍状態にすることをテンパリングといいますが、高周波誘電加熱のほうがテンパリングしやすく、この点でも、マイクロ波よりも冷凍食品の解凍に適しています。
図7-4-4/高周波解凍による温度上昇曲線
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