高周波誘電加熱の原理
8.損失係数の違いによる選択加熱

前ページの(表3-7-1)でみたように、損失係数は誘電体の種類によって違っています。発熱量は損失係数に比例するので、単一の誘電体ではなく、異なるいくつかの誘電体から構成されている物体に高周波電圧をかけると、各誘電体の発熱量は不均一になります。

例えば、水分を不均一に含んでいる木材では、含水率の高い部分と低い部分とで損失係数が異なるので、発熱量が違っています。また、木材に接着剤を塗った場合では、接着剤の部分と木材の部分とでやはり損失係数が異なり、発熱量が違っています。

損失係数は周波数によって変わるので、異なる物質から構成されている物体を加熱する場合に、加熱したい物質の損失係数が他と比べて特に高くなるような周波数を選ぶことによって、特定の物質を選択加熱することができます。このことを利用すれば、例えば部分的に水分を含んでいる木材であれば、含水率の高い部分を選択的に加熱することにより乾燥させることができ、含水率を均一にすることができます。また、(図3-8-1)のように木材接着の場合であれば、接着剤の部分を選択的に加熱することにより、接着剤をすばやく乾燥して硬化することができます。

直接加熱では、物体内部の特定の部分だけを加熱するということはできませんが、誘電加熱ではこのように物体内部の特定の部分だけを選択加熱できるのが大きな特徴です。

図3-8-1/高周波誘電加熱による木材接着で見られる選択加熱

左図は集成材の製造原理を表しています。複数の木材を重ねて高周波誘電加熱で接着させているところです。点線が接着剤の部分です。
右図はそれをサーモグラフィーで解析した画像です。接着剤の部分だけが赤くなっている(モノクロの写真なので、白く見えている部分)のは、そこが選択加熱されているからです。