安全基準・電波防護指針・使用許可申請
電波防護指針
(1) 電波防護指針の概要
人体の安全面から見た我が国のマイクロ波加熱装置などからのマイクロ波エネルギー漏洩量の規制は、現在のところ電波法には特に規定されていない。当然ではあるが、安全性を無視しても良いと云うことにはならない。一般に利用されている人体への安全性のガイドラインとしては「電波防護指針“諮問38号電波利用における人体の防護"電気通信技術審議会1990(H2)-6答申」に指針が示されており、この指針を用いて26.2項に記述の自主規制を行なっているのが現状である。以下、電波防護指針の概要を説明する。
電波防護指針には「電波利用において人体が電磁界にさらされるとき、その電磁界が人体に不要な生体作用を及ぼさない安全な状況であるために推奨される指針である」と記載されており、即ち人体の深部体温上昇、電流刺激、高周波熱傷などの異常発生が無い指針値が示されている。
我が国では「電波防護指針;諮問38号」が答申された後は、携帯電話端末などの身体に極めて近接して使用される機器を対象に、局所吸収指針値を追加した「電波防護指針“諮問第89号
電波利用における人体防護のあり方"電気通信技術審議会1997(H9)-04答申」もあり現在に到っている。
(2) 電波防護指針の指針値
「電波防護指針;諮問38号」で指針とされている各種数値のうち、マイクロ波領域での電磁界強度及び局所 吸収指針値を表26.2.1、表26.2.2に示している。
環境条件 | 周波数 f | 電界強度の実効値 E(V/m) |
磁界強度の実効値 H(A/m) |
電力密度 S(mW/cm2) |
---|---|---|---|---|
管理環境 (条件P) |
30MHz~300MHz | 61.4 | 0.163 | 1 |
300MHz~1.5GHz | 3.54* (f:MHz) (61.4~137) |
/106 (f:MHz) (0.163~0.365) |
f/300 (f:MHz) (1~5) |
|
1.5GHz~300GHz | 137 | 0.365 | 5 | |
一般環境 (条件G) |
30MHz~300MHz | 27.5 | 0.0728 | 0.2 |
300MHz~1.5GHz | 1.585 (f:MHz) (27.5~61.4) |
/237.8 (f:MHz) (0.0728~0.163) |
f/1500 (f:MHz) (0.2~1) |
|
1.5GHz~300GHz | 61.4 | 0.163 | 1 |
表26.2.1 電波防護指針;諮問38号に示されているマイクロ波領域での電磁界強度指針値
(平均時間 6分間)
環境条件 | 全身平均SAR | 局所SAR |
---|---|---|
管理環境 (条件P) |
0.4W/kg | 任意の組織10g当り 10W/kg 20W/kg(四肢) |
一般環境 (条件G) |
0.08W/kg | 任意の組織10g当り 2W/kg 4W/kg(四肢) |
*周波数適用範囲;100kHz~3GHz。
*対象;身体に近接して使用する小形無線機など。0.3~3GHzで10cm以内。
表26.2.2電波防護指針;諮問第89号に示されているマイクロ波領域での局所吸収指針値
(任意の6分間平均値)
(3) 「管理環境、一般環境」について
表26.2.1 にある管理環境、一般環境につき説明する。
電波防護指針では、その漏洩電波の許容電力密度の規制値を「管理環境」と「一般環境」とに分類して定めて いる。この電波防護指針の考え方は、「管理環境(条件P)」は電波利用の実情が認識されているとともに、防護 対策を特定することが出来る状況下にあって、注意喚起などに基づいた電波利用を行うことが可能な場合として おり、工業用高周波誘電加熱・マイクロ波加熱装置などが対象と云える。
一方、「一般環境」は「条件G」とも称し、次に掲げるような状況を考慮して十分な安全率を適用している。 平たく云えば民生用の電子レンジなどが対象となる。表26.2.1 及び 表26.2.2 からも分かるように、一般環境 (条件G)対象機器からの漏洩電波の許容電力密度は、「管理環境(条件P)の5倍の安全率とする(規制値で 1/5)」を適用することで設定されている。
・さまざまな年齢、身体の大きさ、健康状態などの人々が含まれる。
・電波の利用を必ずしも認識していない。
・電撃、高周波熱傷に対する予防措置を期待できない。
・いかなる場合でも安全側と望まれる。
尚、「ペースメーカ使用者など特殊な状況に置かれている人」は、本電波防護指針の適用から除外されている。
(4) 「SAR」について
表26.2.2 にあるSARにつき説明する。
「SAR」は「 Specific Absorption Rate 」の略字で「比吸収率」と称して、単位は「W/kg」となる。 これは体内での熱発生度合いの尺度として用いられるもので、単位質量当りの吸収電力量(単位時間当りの吸収 エネルギー)とも云える。「全身平均SAR」は人体に吸収されるエネルギーの総和の指標となる。一般的には、 安静時の代謝量は「1W/kg程度」、軽い運動で「2.5W/kg」、激しい運動で「10W/kg」となる。 更に、「全身SAR」が「4W/kg程度」になると深部体温が「約1℃」上昇すると見積もられており、健康 への負担になると云われている。尚、携帯電話の場合は以下の通りである。
携帯電話の例;
800MHz帯・・・平均値 0.565W/kg(σ=0.217)
1500MHz帯・・・平均値 1.04W/kg(σ=0.261)
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