マイクロ波加熱の応用例
具体的応用例と装置例 鋳物関係業界 砂型の乾燥硬化(キュアリング)・接着、塗型剤の乾燥

鋳物関係業界

鋳物関係では自動車、農機具、ブルドーザ用エンジンのようなものを大量生産する業界で利用されている。鋳物製エンジン素材の製造過程で砂型や中子を大量に使用する。この砂型・中子の硬化(キュアリング)処理、複雑な砂型同士を圧締しながらの加熱・接着処理、塗型剤の乾燥処理などに利用されている。

更に精密鋳造方法であるロストワックス法でも利用されており、以下それら概要を記述する。

(1) 砂型の乾燥硬化(キュアリング)及び接着

図19.3.26 プレス内蔵加熱装置

鋳物関係の砂型・中子のキュアリング(硬化)、複雑な形状の砂型・中子を製作する場合、幾つかの砂型を組み合わせ砂型同士を接合して製作することが多く、このような場合にマイクロ波加熱が利用されている。特に砂型同士の接着では、接着剤が選択的にマイクロ波加熱され硬化・接着処理を促進する特徴がある。尚、接着剤によってはマイクロ波エネルギーをより選択的に吸収させるため損失係数の大きい酸化物やカーボン粉末などを混入する場合もある(重量比で10~20%程度)。

砂型の硬化処理(キュアリング)には発振出力数kW~数十kWのバッチ式やローラコンベヤ式(間欠搬送)装置が、砂型の接着用には出力数kW~十数kWの装置で、砂型同士を圧締する必要があるためプレス機構を内蔵したオーブンとなっている。前頁の図19.3.26はプレス内蔵マイクロ波砂型接着装置の外観を示している。

(2) 塗型剤の乾燥

図19.3.27 塗型剤乾燥装置

砂型に塗布されたカ-ボン系・ジルコン系などの水溶性塗型剤(使用目的は、砂型表面を滑らかにするとともに、砂自身を湯に直接接触させること無く劣化を抑制するもの)の加熱・乾燥が速やかに出来る。各種エンジン鋳物製作用砂型を発振出力数十kWでローラコンベヤなどを利用した図19.3.27のようなコンベヤ形加熱装置が利用されている。

尚、溶剤を利用した塗型剤もあるが、この場合は溶剤が引火ガスとなる可能性があり、マイクロ波加熱処理の利用は避けたい。

補足説明

「新砂」と「再生砂」のマイクロ波吸収度合い鋳物砂は、使い始めの真新しい「新砂」と再生利用する「再生砂」とがある。砂の主成分はSiO2であり、マイクロ波損失係数が小さくマイクロ波加熱され難いが、新砂より再生砂の方がマイクロ波加熱され易くなるのが一般的である。

これは、砂を再生する前の鋳込み工程などで砂に塗型剤やカーボンなどが付着・混入したり、砂同士を接着・硬化させるためのバインダーなどの残存があり、砂の洗浄など再生段階でそれらを完全に除去しきれないため、マイクロ波エネルギーを吸収するようになると思われる。

(3) ロストワックスの溶出

(a) ツリー(模型とランナー)

(b) シールドカバーとツリー

図19.3.28 鋳物ツリー説明図

ゴルフ用クラブのアイアンヘッドなど精密鋳造製品などの製法は「ロストワックス法」と呼ばれる方法で作られる。これは「鋳物ツリー」と呼ばれる鋳型に熔けた金属を流し込み製品を得るもので、一度の鋳込み作業で多数の製品を得ることが可能である。
この「鋳物ツリー」は、ワックスで作られた「ワックス模型(例:ヘッドの雄型)を、ワックス製で熔けた金属が流れる湯道である「ランナー」に木の枝状に多数接着した図19.3.28 (a) のようなものである。

このワックス模型に、液状粘結剤と耐火粉末を混ぜ合わせたスラリーに浸漬し泥を付着させて(コーティング)、それに耐火砂を吹き付け(スタッコイング)乾燥する。これを複数回数繰り返し耐火材の厚さを所定寸法にすると鋳型となる。この鋳型製作法をセラミックシェルモールド法と称する。その後、何等かの熱源によりワックスを溶かし出すこと(脱ロウ)により鋳型となる。これを焼成後、熔けた金属を流し込めば精密鋳物製品が得られる。

先の「脱ロウ」工程での従来の熱源は、高温・高圧の蒸気を利用(オートレープ)することが多いが、この蒸気の代りにマイクロ波加熱を利用したものが開発されている。
マイクロ波加熱により脱ロウする場合は、内部加熱によりワックスが選択的に加熱されるが、その際ワックスが熱膨張して鋳型にクラックが入ることがしばしば発生する。これを避けるため図19.3.28(b)のようにツリーの下方から順次ワックスを溶かし出すよう、ツリーの上方からシールドカバーを被せ、脱ロウ状況を確認しながら、それを上方へ持ち上げるような工夫を採り入れている。

なお、模型剤であるワックスに代えてユリア樹脂を利用する場合もある。