マイクロ波加熱
5-1 長所(前ページより続く)
④ 真空・減圧・加圧のもとでも加熱出来る。
(a) 真空・減圧
真空・減圧の条件下では、燃焼による加熱は出来ないので熱輻射や熱伝導による加熱とならざるを得ず、エネルギ-の供給密度が上げられないため処理時間が長くなる。しかしながら、マイクロ波加熱は真空・減圧中でもエネルギーの伝送が可能であり、被加熱物を真空度相当の沸点で効率良く低温加熱・乾燥することが可能である。尚、真空度が数十~数千Pa(0.5~数十Torr。1Torr=133.4Pa)では、マイクロ波エネルギーにより真空放電(グロー放電)が発生することがあり注意を必要とする。真空放電は一度発生してしまうと投入電力を下げてもなかなか消えないものである。放電を避けるには、PD(被加熱物の単位重量当りのマイクロ波投入電力量;kW/kg)を小さくしたり、処理真空度を変える(数Paより高真空側、或いは105Paより大気圧側)などの対策が必要となる。
(b) 加圧
更に、加圧下でも同様に加熱可能で、従って沸点を高くでき殺菌などにも適用できる。従来の蒸気などを利用しての加圧釜では、処理に必要な温度以上の圧力の蒸気が必要だが、圧力容器を利用したマイクロ波加熱では、被加熱物に含まれる水分が蒸発し、それに連れて圧力容器内の圧力も高くなるので沸点も高くなる方へ連動することになる。このようにマイクロ波エネルギー自身で加圧状態にして、沸点も大気圧の沸点以上に加熱することが可能である。尚、加圧する場合には、圧力容器の大きさや使用圧力にもよるが従来の加圧容器相当の第一種圧力容器となるので、設計・製作・使用する場合は、労働基準監督局への許可申請が必要となる。
(c) その他
マイクロ波加熱中に、熱風・冷風を併用したり、窒素ガスなどの不活性ガスをオーブン内に供給しながら加熱処理することも可能である。
⑤ 選択加熱が可能である。
複合物質の損失係数の差を利用して部分的に選択加熱することが出来る。例えば、木材・砂型などを接着する場合、接着剤にカ-ボン粉末(重量比;10~15%)を混入するなど工夫し、木材・砂型などにはマイクロ波エネルギーをあまり吸収させず、接着剤にマイクロ波を効率良く吸収させることも可能である。
更に、各地で販売されている銘菓などの黴発生防止のため菓子自身を65~75℃程度に加熱することがある。これは雑菌に汚染された人間の手が触れることが無い最終包装形態でプラスチック・フィルム製袋、段ボ-ル箱など(アルミフォイルなどの金属は電波を遮断するため使用不可)をあまり加熱させずに中身である菓子自身のみを選択加熱することも可能である。
又、水分がアンバランスに含まれている被加熱物を乾燥したい場合、マイクロ波エネルギーは損失係数の大きい水分に選択的に吸収され加熱・蒸発して含有水分の平均化(レベリング効果)することも可能である。
従来の加熱方式では、熱は被加熱物に表面より全体的に伝わるため、水分に選択的に熱エネルギーを供給することは出来ず、水分のレベリング効果は期待できない。
⑥ 作業環境の改善が図れる。
マイクロ波による装置の汚染などは、電波によるエネルギー伝送手段であるため考えられず、作業場所を汚さず衛生的である。更に、有害ガスの発生がなく、マイクロ波加熱炉(オ-ブン)も殆ど熱くならず、作業エリアへの放熱も殆ど無いため快適な作業環境を得ることが出来る。
従来の加熱炉の場合、炉自身が熱くなって、熱風なども漏れてくるため作業室内が暑くなることが多い。作業環境改善には、換気を十分に行いクーラの設置などを考慮しなければならず、設備投資、ランニングコストなども加熱・乾燥設備の選択の場合の重要な検討項目となる。
⑦ 水などを短時間に沸騰させることが可能である。
共振器構造の加熱炉を用いてPD(被加熱物単位重量当たりの投入電力量;kW/kg)を大きくするとともに、整合器によるマッチングを利用すれば極めて短時間に水などの流体を加熱・温度上昇・蒸発させることが可能である。
尚、溶液などをマイクロ波で加熱・蒸発させる場合、オーブン内雰囲気が蒸気で熱くなり液表面での放熱が少なくなると、マイクロ波加熱の内部加熱の特徴から溶液の表面より内部が過加熱・蓄熱状態となり熱的にバランスが崩れると極めて大きな突沸現象が発生し水滴を大きく飛散させることがある。電子レンジでも同様の現象が発生することがあるので注意が必要である。解決手段としては「液体の攪拌」となる。
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