マイクロ波加熱
マイクロ波加熱の原理(1)

1-1 物質の加熱手段

物質を加熱する場合、既に記しているが電気ヒ-タ、ガスの炎、蒸気、熱風、レーザなどの熱源から放射された遠赤外線を含む赤外線を“対流・伝導・放射”の3形態によって熱移動させて物質の外表面から加熱するもので、物質はそれ自身の熱伝導及び対流(液体・気体の場合)によって内部まで温度上昇する、所謂“外部加熱方式”が一般的である。

これに対してマイクロ波加熱は、このような物質の外側から加熱する方法とは異なって、“誘電加熱”の原理により被加熱物自身(誘電体)が発熱体となる“内部加熱方式”である。この誘電加熱方式の加熱原理は、被加熱物をマイクロ波の電界の中に置くと、被加熱物を構成している分子(永久双極子)が電波(電界)の力を受け、電気的に中性状態であった永久双極子を変位・分極させ、マイクロ波の周波数に応じ激しく振動させることになる(2450MHzの場合、二十四億五千万回/秒となる)。この時、各分子間で摩擦熱が発生し誘電体全体が発熱・昇温する、これが“誘電加熱”のモデル的な考え方である。誘電加熱を司る分極現象と似たような現象は、他の周波数帯域でも発生し、次項にて各種誘電分極の原理を簡単に説明する。

1-2 誘電分極とその種類

金属や半導体は比較的自由に動ける電子及び正孔を有する物質である。これに対して価電子が原子に束縛されていて電気伝導性を示さない、いわゆる絶縁物と称する物質がある。この絶縁物質を電界の中に置くと電子や正孔は流れず、即ち電流は発生しないものの、物質中のイオンや電子のような正・負の電荷が平衡点から変位して見掛け上、電荷が分離する所謂「分極現象」が見られ、このような性質を示す物質を誘電体と称している。誘電体が外部電界により分極する現象は、表6.1.1 に示す4種類がある。

種類 内容 モデル
電子分極 電子は正に帯電している電子核と負に帯電している電子雲より構成されており、電界が作用していない時は原子全体として中性である。この原子に電界が作用すると原子核に対し、電子雲が変位する分極。通常紫外線領域以下で観測される。イオンの変位、極性分子の配向や荷電粒子の移動は追随出来ない。固有振動数は1015Hz(紫外線領域)付近。
イオン分極
(電子分解)
正と負のイオンが変位する分極。イオンの質量は電子に比べて103倍ほど大きいので固有振動数である赤外線領域で現れる(1012~1013Hz)。異種の原子で構成されている分子は、電子が対称に配置されていないので、電界が作用すると原子核が相対的に弾性的に変位する分極。
○:(-)、●:(+)を示す
配向分極
(方位分極)
電界が作用していない状態で、正・負電荷の中心がずれているものを永久極子というが、通常任意の方向を向いており全体として中性である。この極性分子が電界の作用により別の平行状態に変位し、電界の方向に配向する分極。固有振動数は1011Hz(マイクロ波領域)以下である。
界面分極
(空間電荷分極)
不均質な誘電体でイオンや電子などの荷電粒子が移動し、特定の空間や界面にたまる分極である。配向分極に比較すれば低い周波数(可聴周波数領域)で観測される。

表6.1.1 誘電分極の種類とその概要