電波とマイクロ波とISMバンド
表2.3.1 にあるように「ISMバンド」にはマイクロ波加熱用として4帯域が指定されているが、実際に 我が国でマイクロ波加熱装置として実用化されているのは「915MHzと2450MHz」の両周波数で、 電子レンジを含め周波数2450MHzのマイクロ波加熱装置が圧倒的に多いと云える。
前記の二帯域のうち「周波数2450MHzのマイクロ波加熱装置から発射される基本波又はスプリアス 発射による電界強度の最大許容値を定めない」と郵政省告示257号に記載されている。従って、電波法上 からは、周波数2450MHzのマイクロ波加熱装置からの漏洩マイクロ波エネルギーが青天井であっても 特に問題無いことになる。但し、人体への安全管理面から、後述の電波防護指針を考慮した自主規制を実施 するほか、高周波利用設備許可状には「使用周波数が他の通信設備に妨害を与える場合は、その妨害を除去 するよう措置すること」と条件が付記されていることに留意したい。
翻って、周波数915MHzのマイクロ波加熱装置は、前記郵政省告示257号の特例対象には含まれて おらず、「無線設備規則第65条二号の規制値(装置から100m地点で100μV/m以下=40dBμV/m以下)」が 適用される。この規制値をクリアすることは非常にハードルが高くて、加熱装置の電波漏洩量を可能な限り 抑制するとともに(後述の電波防護指針を考慮した電波漏洩量の自主規制値を、桁違いに小さくする必要が ある)、加熱装置を据え付ける建物にもそれなりのシールド対策を実施しない限りクリアすることが困難と 云えるほどの厳しい規制値となっている。実状は加熱装置及び装置据付建屋の両方に電波遮蔽策を実施して 電界強度の規制値に合格し、この場合も他の通信設備などに妨害を与えないことで使用許可が出されている。 実際の応用例としては、電力半減深度が大きいことから、主に大形被加熱物の加熱処理、例えば冷凍畜肉 ・魚肉類の解凍処理(ダンボール箱に入った状態でも解凍可能)、耐火物やセラミックスの加熱・乾燥処理 などに利用されている。今後は周波数2450MHzの加熱装置では電力半減深度が浅くて大形化が困難な 分野、例えば化学反応促進処理装置などへの利用が期待されるところである。
尚、ISMバンドには「5800MHzと24125MHz」の帯域も指定され、郵政省告示257号の 特例対象に含まれているものの、これらの周波数を発振させる安価に入手可能な電子管が開発されていない ため(ジャイロトロンはあるが現在のところ高価)、実験設備での利用例はあるが、生産現場での実用例は 無いのでは…?と思っている。一般的に使用する発振周波数が高くなるに従い電力半減深度が浅くなること から、その限界を見極めた上で応用技術の開発・利用の検討が必要とも云える。
更に、ISMバンドには数MHz~数十MHz帯の電波も「誘電加熱」用として三帯域が指定されており、 郵政省告示257号でも特例対象となっている。この周波数帯の電波加熱方法を周波数が高い「マイクロ波 加熱」に対して「誘電加熱」又は「高周波(誘電)加熱」と称しており、これら高周波加熱装置の実用例は マイクロ波加熱装置に比べて歴史も古く、多岐に渡って数多く利用されている。
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