初心者のための高周波誘電加熱
1.内部から加熱する高周波誘電加熱

この技術資料は、高周波誘電加熱の原理と応用技術を説明するものです。
はじめに、初心者の方のために、高周波誘電加熱を簡単に定義しましょう。
高周波誘電加熱とは誘電体を高周波電界の中に置いて内部加熱することです。
でも、これだけでは、何のことかわかりませんね。順番に説明していきましょう。

この単元ではまず、加熱について説明します。
物を加熱する方法には、内部加熱外部加熱があります。日常で物を加熱する(温める)場合はほとんどが外部加熱です。たとえば、フライパンでステーキを焼く、お風呂を沸かす、焚き火に手をかざして暖を取るなど、すべて外部加熱です。
しかし、同じ外部加熱でも3 つの原理は異なります。
まず、フライパンでステーキを焼く原理は、フライパンの熱がフライパンと接しているステーキに移動してステーキが加熱されます。熱は高い物から低い物へ移動する性質があるからです。この熱の伝わり方を「伝導」といいます。
次に、お風呂を沸かす原理は、温められた水が湯船の水の中を移動して全体がまんべんなく加熱されてお湯になります。水は温度によって重さが変わるので、温められた水は上に昇り、冷たい水は下に降りるという流れが起こるからです。熱が移動するのではなく、温められた水が移動します。この熱の伝わり方を「対流」といいます。
最後に、焚き火に手をかざして暖を取る原理は、焚き火から発せられる熱エネルギーが赤外線などによって伝播されて手のひらが暖かくなります。接している物から物へ熱が移動する伝導でもなく、温められた物が移動する対流でもなく、熱エネルギーが伝播するこの熱の伝わり方を「放射」といいます。宇宙のかなたにある太陽の熱が、地球との間に何も物質が存在しないのに届くのは放射によります。
このように3つの加熱の原理は異なりますが、どれも物に外から熱を加えている点は共通しています。

これに対して高周波誘電加熱は外から熱を加えるのではなく、物を中から加熱するので内部加熱といいます。外からの熱が徐々に中に伝わっていく外部加熱と比べて、内部加熱は物全体を内側から均一に加熱するという特徴があります。外部加熱と比べて、加えられたエネルギーが効率よく熱に変わるなど、他にもさまざまな特徴があります。内部加熱には「高周波誘電加熱」と「高周波誘導加熱」があります。高周波誘電加熱の身近な代表例は、電子レンジです。高周波誘導加熱の代表例は、IHクッキングヒーターで、その上に載せたフライパンや鍋が加熱されるのは高周波誘導加熱によるものです。この技術資料で説明するのは高周波誘電加熱です。