初心者のための高周波誘電加熱
2.電流を通す導電体と通さない誘電体

前ページの冒頭で、高周波誘電加熱とは誘電体を高周波電界の中に置いて内部加熱することだと定義しました。
では、誘電体とは何でしょうか。
簡単に説明すると、物質には電流を通す導電体電流を通さない誘電体があります。
鉄や銅など金属の多くは電流を通すので導電体です。それに対して、プラスチックやガラス、純水などは電流を通さないので誘電体です。ではなぜ、導電体は電流を通し、誘電体は通さないのでしょうか。実はこの違いが、高周波誘電加熱を理解する上で、とても重要な点なのです。

どんな物質でも原子は、陽子の固まりである原子核と、原子核の周りを回る電子でできています。陽子はプラスの電気(正確には「電荷」といいますが、第1章では馴染みのある「電気」と表現)を持ち、電子はマイナスの電気を持っています。通常、陽子と電子の数は同じなのでプラスとマイナスは打ち消し合い、原子全体はプラスにもマイナスにも電気は帯びていません。また、陽子と電子はお互いに強く引き合っているのですが、一方で、原子核の周りを回る電子には遠心力が働いており、引き合う力と遠心力が釣り合っています。誘電体ではこの状態が非常に安定しており、電子は基本的には原子核を回る軌道から離れることはありません。
それに対して、鉄や銅などの導電体では、一部の電子が原子核から離れて自由に動き回ることができます(図1-2-1)。このような電子を「自由電子」といいます。(図1-2-2)の右図のように導電体をプラスの電極とマイナスの電極ではさんで電圧をかけると、自由電子はプラスの電極に引き寄せられ、そちらに向かって移動します。つまり、電圧のエネルギーを受けて自由電子の流れができます。これが電流です。しかし、誘電体に同じように電圧をかけても、自由電子を持たないために(電子は原子核を回る軌道から離れないために)電流は流れません。これが、導電体は電流を通し、誘電体は電流を通さない理由です。

図1-2-1/原子核から離れる自由電子

図1-2-2/導電体の中の自由電子

(図1-2-1)導電体では原子核から離れた自由電子が存在します。

(図1-2-2)そこに電圧をかけると、自由電子はマイナスの電極からプラスの電極に向かって移動します。その流れが電流です。

★電気の理論上のルールでは電流はプラスからマイナスに流れると説明されますが、これは理論上の説明であって、実際の自由電子はプラスに引き寄せられて、その流れはマイナスからプラスに向かいます。