高周波誘電加熱の原理
3.交流電圧と交流電流の位相のずれ

ところが、回路にコンデンサを置くと、交流電圧と交流電流の波形の周期に(図3-3-1)のようなずれが生じます。交流電圧と交流電流の1 サイクルを見ると、電流の波形の方が電圧よりも1 サイクルの4分の1 だけ早く波が来ています。これを電圧と電流の位相差といいます。1 サイクルを1 回転=360°とすると、その4 分の1 は90°なので、電流は電圧より90°位相が進んでいるともいいます。

図3-3-1/コンデンサを置いた回路の交流電圧と交流電流の波形

1).電圧【点線】が0から上がり出した瞬間、コンデンサはその電荷を受け入れるので、電流【黒い線】がスムースに流れ出します。

2).電圧【点線】が上がるにつれてコンデンサの電極に電荷が溜まり出し(誘電体は分極し始め)、電荷を受け入れる余地が減り始めるので、徐々に電流【黒い線】は低下していきます。

3).電圧【点線】が最大値になった瞬間、コンデンサにはそれ以上の電荷は来なくなり、誘電体は分極したまま、電流の【黒い線】は一瞬、止まります(0になります)。

4).電圧【点線】が最大値になった瞬間を境に電圧が下がっていくため、電極に溜まった電荷は電圧の向きと逆に放出されて、電流【黒い線】は電圧と反対向きに流れ出します。グラフでは電流【黒い線】がマイナスの方向に大きくなっています。電極から電荷が放出されるので、誘電体の分極が戻り始めます。

5).電圧が【点線】下がり0を通り越してマイナスの最大値に向かう間、②と同じ原理で、電流【黒い線】の流れは低下していき、0に近づいていきます。そして、電圧【点線】のマイナスが最大値になった瞬間、電流【黒い線】は止まります。そののち、④と同じ原理で、電流は電圧の向きと反対に流れ出します。

なお、交流回路に電流が流れている間も、コンデンサの誘電体内部では交流電流のサイクルに合わせて分極の向きが反転を繰り返しているだけで、実際の電子の流れはありません。このような電子の流れを伴わない電流を変位電流といい、電子の流れを伴う導電電流と区別されます。このコンデンサ内部の変位電流が電圧よりも90°位相が進んでいる電流です。また、変位電流は電子の流れを伴わないので、導電電流が流れるときに発生する抵抗は生じません。