誘電加熱を起こす電磁波の種類
8.高周波誘電加熱とマイクロ波加熱

誘電加熱に利用できる電磁波は、周波数が3MHzの短波から30GHzのセンチ波までの帯域ですが、その中でも短波や超短波を利用する誘電加熱と、それより周波数の高い極超短波やセンチ波を利用する誘電加熱は、原理は同じですが機構は異なります。
短波や超短波の周波数帯域(3MHz~300MHz)を利用する場合は、(図2-8-1)の左のように高周波回路をつくり、その回路上の2つの電極間にできた高周波電界に誘電体を置いて誘電加熱します。この方法による加熱を高周波誘電加熱といいます。この技術資料の後半で説明するのは、すべて高周波誘電加熱についてです。
一方、極超短波やセンチ波の周波数帯域(300MHz~30GHz)を利用する場合は、高周波回路をつくるのではなく、発振器より電磁波を放射して高周波電界をつくり、そこに誘電体を置いて誘電加熱します。この方法による加熱をマイクロ波加熱といい、電子レンジはこれを利用したものです。

図2-8-1/高周波誘電加熱とマイクロ波加熱

周波数の違いによる加熱方法の違いを整理したものが(表2-8-2)です。グレーの部分が誘電加熱に利用できる周波数帯域です。

表2-8-2/周波数の違いによる電磁波加熱の分類

電磁波の種類 周波数 波長 主な用途 電磁波加熱分類
超長波(VLF) 3×103~=3~30kHz 100km 無線航行用オメガ 高周波誘導加熱
長波(LF) 3×104~=30~300kHz 10km 航法用ビーコン
中波(MF) 3×105~=300~3000kHz 1km AM放送
短波(HF) 3×106~=3~30MHz 100m 放送、遠洋漁業通信 高周波誘電加熱
超短波(MLF) 3×107~=30~300MHz 10m タクシー無線
極超短波(UHF) 3×108~=300~3000MHz 1m TV 放送、短距離通信 マイクロ波加熱
センチ波(SHF) 3×109~=3~30GHz 10cm レーダ、宇宙通信
ミリ(EHF) 3×1010~=30~300GHz 1cm レーダ、衛星間通信
サブミリ波 3×1011~=300~3000GHz 1mm 計測、電波望遠鏡

なお、誘電加熱より低い周波数を利用する加熱方法に、高周波誘導加熱があります。名称は非常によく似ていますが、高周波を利用している点が共通しているだけで、原理はまったく異なります。
誘電加熱とはこれまで説明してきたように、電流を通さない誘電体に高周波電圧をかけると誘電体分子が非常に激しく反転し、それによって誘電体自体が発熱することです。一方、誘導加熱とは、高周波電流の流れるコイルの中に電流を通す金属棒(導電体)を挿入すると、金属棒が直接コイルに触れていなくても、コイルのまわりに磁界が発生し、その磁界の変化によって金属棒に電流が流れ(電磁誘導といいます)、ジュール熱で導電体自体が発熱することです。

高周波誘電加熱とマイクロ波加熱の機構の違いは(図2-8-1)のとおりですが、周波数の違いとこの加熱機構の違いにより、被加熱物に与える影響や加熱の特徴が(表2-8-3)のように異なります。被加熱物の形状や大きさ、電気的特性、加熱目的などにより、どちらか適した方法を選択することになります。

表2-8-3/高周波誘電加熱とマイクロ波加熱の比較

高周波誘電加熱 マイクロ波加熱
周波数 13.56MHz 27.12MHz 40.68MHz 2450MHz 915MHz
加熱の方式 1対の電極板で挟んで加熱される
全方向からマイクロ波の照射を受け加熱される
加熱の深さ
(電力半減深度)
深く加熱できる
表面での発熱が大きい
やや深く加熱できる
加熱の特徴 ・電極の大きさや形状をかえることで部分加熱ができる
・凸凹の形状の被加熱物は、不均一加熱になり易い
・立体物の加熱がやり易い
・端部が過加熱(エッジ効果)となり易い
発振装置 出力 小出力から大電力まで対応(~200kW/台) 小電力に対応(~6kW/台) 主に大電力に対応
(30~100kW/台)
電波漏洩 無線設備規則:適応 無線設備規則:規制を受ける
人体防護:装置側の遮蔽対策で対応