所要マイクロ波電力の算出法
所要マイクロ波電力の算出

2.所要マイクロ波電力の算出

(1) マイクロ波吸収効率:η

マイクロ波加熱及び高周波加熱における所要マイクロ波及び高周波電力P1は、他の加熱方法と同様、熱量計算により算出することには変わりは無い。マイクロ波加熱だからといって「損失係数;εr*tanδ」などを扱うことは無い。ある被加熱物を加熱・乾燥処理を行うときに必要とする熱量Q0(理論熱量とし、電力で表わせばP0となる)は、どのような加熱方式においても一定である。ところが、実際に用意しなければならない熱量Q1(被加熱物へ供給する熱量。加熱装置のマイクロ波電力P1と同義)は一般に理論熱量よりも大きくなる。この理論熱量Q0と供給熱量Q1の比は、マイクロ波吸収効率ηで表され(21.2.1)式の通りとなる。

η=Q0/Q1*100=P0/P1*100(%) ・・・・・・(21.2.1)

マイクロ波加熱でのマイクロ波吸収効率は、被処理物の特性(マイクロ波損失係数;比誘電率εr・誘電体損失角tanδの大・小)、形状(ブロック状、シート状、糸状など)、液体・固体・粉末・気体、加熱システムの構造(箱形オーブン、導波管形、共振器など)といった要因に左・右され変化する。又、次項で述べる反射電力や無効電力なども吸収効率に影響を与える。

吸収効率は100%であることが理想であるが、上記のような要因の影響を考慮し、比較的加熱効率が高いマイクロ波加熱でも、加熱効率は通常70%程度として計算するのが一般的である。加熱対象物のマイクロ波損失係数が小さい場合には吸収効率が極端に小さくなることもある。このような場合、マイクロ波加熱を利用することを躊躇する場合もあるが、従来方法と比較して品質や付加価値が著しく向上し付加価値が上がることとか、断熱材などのような従来の加熱方法では簡単に加熱できないものが加熱可能になるなどマイクロ波加熱の特長である内部加熱が生かせることを強調し、ユーザに採用していただくよう説得することになる。

(2) 反射電力・無効電力

反射電力とは、既に記述したように照射部内の被加熱物の量や性質が不適当な場合に、照射部からマイクロ波発振機に反射して戻る電力のことである(実際には、接続導波管・各回路素子・照射部などでも電力の反射は発生、その合成となる)。厳密には、この反射が原因となりマグネトロンの動作条件が変化し出力が低下した場合も損失と言えるかも知れない。逆に出力アップすることもあるが、この場合は「儲けた!」ことになる。

又、オーブン内に被加熱物以外の吸収物質(被加熱物を支える台や容器など)があるとき、それらにもマイクロ波電力は吸収されて、目的とする加熱に役立たない無効電力もある(導波管や加熱部内壁での誘導加熱による損失は殆ど無視できる)。その他、例えばホーン・アンテナ方式の場合のように、被加熱物に吸収されないで空中に放散される電力や、スロット導波管方式などで被加熱物であるシート状材料への吸収が少ないとき、終端部である水負荷などに吸収されてしまう電力もあり、これらの無効電力を少なくすることが重要と言える。

(3) 処理条件の違いによる理論必要熱量Q0の種類

被加熱物を加熱・乾燥する場合の目的別にみると、次の内容が考えられる。

① 単なる加熱で昇温のみの場合(加熱・昇温)

被加熱物の平均比熱と温度上昇値を考慮。

② ほぼ水の沸点100(℃)まで加熱後、水分を蒸発させる場合(乾燥)

被加熱物の平均比熱と温度上昇値及び水の気化熱を考慮。

③ 凍結している物を融解する場合(解凍)

被加熱物の平均比熱(凍結時)と温度上昇値及び水の融解熱を考慮。

④ 通常温度では固体で、ある温度に加熱することで溶解する場合又は反応を促進する場合

被加熱物の平均比熱、融解熱、反応熱などを考慮。

計算条件として①の場合は処理量、初期温度、到達温度(或いは昇温値)、平均比熱、②の場合は更に初期含水率、到達含水率を、③ 、④の場合にはそれぞれの融解熱、反応熱(分解熱)などを考慮する必要があり、これらの数値は明確にしておかなければならない。この項では多用される①及び②の場合について詳述する。

(4) 平均比熱について

所要マイクロ波電力を求める場合、比熱を考慮する必要がある。被加熱物が単一物質では当該比熱を用いれば良いが、一般には各種物質に水分を相当含んでいることが多く、その複合物質での平均比熱を利用しなければならない。この平均比熱の選択によっては所要マイクロ波電力に大幅な違いが出るため、可能な限り正確に算出すべきである。以下、平均比熱Cmの算出方法を記述する。

組成物質A,B,Cから成る複合物質があったとした場合、それらの物質A,B,Cの組成重量比及び比熱[kcal/(kg・℃)]をそれぞれWa,Wb,WcとCa,Cb,Ccとする。この場合の平均比熱Cmは下記(21.2.2)式のようになる。但し、各物質は混合しているだけで化学反応による物性の変質は無いものとする。

Cm=Wa×Ca+Wb×Cb+Wc×Cc ・・・・・・(21.2.2)

例えば、複合物質の中身がA,B,Cからなり、その重量比が50(%),30(%),20(%)で、比熱がそれぞれCa=1.0,

Cb=0.20,Cc=0.50[kcal/(kg・℃)]である時、その平均比熱Cmは、(21.2.2)式に各数値を代入して算出すれば、平均比熱Cmは右方にあるように0.66[kcal/(kg・℃)]となる。