マイクロ波加熱の応用例
具体的応用例と装置例 食品業界 焼成(パン、パイ等)

食品業界

(3) 焼成

マイクロ波加熱を利用したパン粉製造ラインは、従来の製法とは異なる全く新しい構想を基に構築されたシステムである。通常、生産されているパン粉は、一般的には外部熱源を組み込んだオーブン方式による焼成方式か、生地に直接電流を流して発熱させる電極式(ジュール加熱、抵抗加熱)の何れかが主流となっている。

焼成式の製品は比較的衛生的で、通常のパンと同じ製法を用いるため生産ラインは取り扱い易いものの、パンの表面が焦げ変色してしまう欠点がある。一方、電極式パン粉は焼色が付かず白いパン粉が得られるが、比較的パン粉に残る雑菌が多く、電極の取り扱いがやや面倒でもある。

更に、両者ともかなり大形のパンを作ることになるので、パン粉にする粉砕工程までの冷却時間が一晩程度必要で、その間老化も進むので品質・生産管理が難しく、且つ広いストックスペースが必要と言う弱点がある。

これに対しマイクロ波加熱を利用したパン粉製造ラインは、従来製法に比較してシンプルで、連続的にコンベヤベルト上に麺帯状に成形された生地を連続的に流して発酵工程を行ない、その後、生地にテンション(張力)を与えながらマイクロ波加熱で短時間に焼成し、冷却後粉砕処理を行う一連の加熱システムとなっている。

図19.3.18 (a)はオーブン内のパン生地の状況を示したものである。

(a) オーブン内部状況

(b) パン生地の剣立ち状況

図19.3.18 マイクロ波パン粉製造とパン粉

このマイクロ波加熱を利用した製造法では、焼成されたパンが細い棒状なので短時間に冷却可能なため、一連の製造時間が大幅に短縮され(従って、老化も少ない)、製品歩留まりもアップし(抵抗加熱法の製品歩留り90~92%程度が98~99%程度に改善)、パン粉を連続的に生産できるなどの製造メリットを有している。この製品歩留りのアップで生産量が同一とした場合、材料仕込み量が減るとともに、排水中の汚泥量も大幅に削減可能で、廃水処理経費が少なく済む副次的メリットが大きく出ることになる。

更に、本方式により生産されたパン粉は図19.3.18(b)に示すように剣立ち性が良く(パン粉の形状を示す)、焼き色も無く、且つ衛生的な生パン粉となっている。

出典 鈴木実・村中恒男・山口聡:
マイクロ波による食品の加熱とその利用分野,ジャパンフードサイエンス,44(2),18-26 (2005)